【がん告知で家族ができること】患者さんに本当のことを伝えたくないという心配
今では病名・病状を患者さんにしっかり伝えることは当たり前になりました。
それでもまだ患者さんには言わないで欲しいというご家族もいらっしゃいます。
伝えないで欲しいという理由は共通していることが多いんです。
本人は精神的にかなり弱いんです。
本当のことを伝えるとかなり落ち込んでしまうので伝えないでください。
果たして本当に伝えないでいいのでしょうか。
今回は告知について考えてみたいと思います。
『自分だったら』と『家族だったら』での違い
興味深い調査結果があります。
■あなががんになったら知らせて欲しいか…80.7%
■家族ががんになったら本人に知らせるか…40.1%
(がん告知に関する世論調査 時事通信社 2007)
10年以上前の調査ではありますが、自分ががんになったときと家族ががんになったときとでは約40%の開きがあります。
もしあなたががんになって本当のことを知らせて欲しくても、ご家族が知らせないという選択をする可能性が大いにあるということです。
患者さんは知りたいと思っているのに、本人が知らないところで家族が知らせないという選択をする。
これっておかしいと思いませんか?
がんの告知には2つある
まず最初にイメージすることは「あなたの病気はがんです」と病名を告げられることだと思います。
病名を伝えるというのはとても大切なことですが、それだけでは治療や今後の過ごし方などについては相談できません。
もう一つ。
「あなたの病状は○○です」と病状を伝えられることです。
本人に本当のことを伝えて欲しくないという多くのご家族はどちらも伝えない選択をすることが多いのですが、患者さんの人生なのにご家族が決めてしまってもいいのでしょうか。
患者さんに本当のことを知らせたくない理由
ご家族が患者さんに本当のことを伝えたくない理由。
最初に書かせていただきましたがほとんどのご家族が言われることです。
本人は精神的にかなり弱いんです。
本当のことを伝えるとかなり落ち込んでしまうので伝えないでください。
- 患者さんを落ち込ませたくない
- 悲しませたくない
- 頑張って治療を受ければ治ると信じてもらいたい
そんなお気持ちを多くお聞きします。
では患者さんは本当のことを知らずにつらい治療を頑張れるのでしょうか?
それだけではありません。
手術も化学療法も放射線治療も、がん治療の全ては患者さんが病気のこと、病状のこと、治療内容のことをしっかりと理解して臨む必要があります。
本当のことを知らせないということは、がん治療を受けることさえできないことに繋がってしまうのです。
Bad Newsを知らされて落ち込むのは当たり前
がん医療の中では病名告知や病状告知などのことをBad News(良くない知らせ)と言います。
どんな人であっても病気に関わらず良くないことを知らされたら落ち込むのは当たり前です。
病名や病状を告知されたときストレスとなる強い衝撃を受けます。
その後2週間以内には気持ちのつらさや落ち込みが回復してくるのが通常の反応です。
本当のことを知らせたら落ち込むということは、患者さんだけでなく誰にでも起こる正常な心理反応です。
ここで注意するのは2週間以上経っても気持ちの回復がみられないときです。
現実に適応できず日常生活にも支障が出るだけでなく、がん治療が始められないということもあります。
この場合は精神科や心療内科などの専門家に繋ぐことが大切になります。
患者さんが病気のことを理解していることが大切
がんの治療は患者さんの身体にとってとても大きな侵襲が加わります。
手術も化学療法も放射線治療もどの治療もすべて副作用があるからです。
自分が受ける治療は何のために何を目的にして行われるのか
つらい治療と付き合っていく上で、このことを理解していることが症状を自分で観察して対処できることになります。
自分のことが何もわからないのに頑張れますか?
これからの生き方を考えることができますか?
後悔のない時間を過ごせますか?
患者さんは自分が感じる身体のサインで、本当のことを知らされなくても周りの人が言っていることは本当なのかと敏感に感じ取ります。
それは医療不信、人間不信に繋がっていきます。
大切な家族のことを信じられなくなったら、患者さんは一人で孤独に病気や治療と闘わなくてはならなくなります。
とても悲しいことですね。
告知に関して家族ができること
告知後の様子は人それぞれ異なりますが、心に大きな衝撃を受けていることは事実です。
不安や悲しみで泣いてしまうこともあるでしょう。
そのときには慰めや励ましなどの言葉はいりません。
何も言わなくていいんです。
ただそばにいて一緒に泣きましょう。
不安や理不尽な気持ち、怒りなどそのときに感じた感情を我慢せずに吐き出すことが大切です。
それを無理して受け止める必要はありません。
患者さんが感じる思いをご家族も一緒に吐き出すことができるといいですね。
ご家族も同じように不安や理不尽な気持ち、怒りを感じているはずです。
思いっきり患者さんと一緒に出し切るまで続けましょう。
そうすれば時間と共にこれからのことを考えるようになります。
そうしたら治療のこと生活のことをご家族も一緒に考えていきましょう。
ここで注意していただきたいのですが、気持ちの落ち込みや不安、怒りなどが2週間以上も続いている場合です。
これはご家族にしか気づけないことだと思いますので、その場合は精神科など心の専門家に診てもらうことを考えてください。
がん告知で家族ができることのまとめ
がんという病気を知らされることは患者さんもご家族もとてもつらいことです。
ですが、人にはそれさえも受け止めて前に進める力があると信じています。
実際に、不安で不安で何を伝えても届かなかった患者さんが、今では自ら情報を集めてわからないことは医療者に積極的に質問して、今の生活が不便なく送れるように家族とも常に相談しているという方がいらっしゃいます。
もちろんそのような方ばかりではありません。
私たち医療者はそれでも患者さんが自らの人生を歩めるようにお手伝いしたいと思っています。
不安な気持ち、理不尽な気持ちなどを医療者にも伝えてください。
ご家族の不安も同じです。
患者さんを一番そばで支えるご家族を医療者もサポートしていきます。
いつでも頼ってくださいね。